医療保険やがん保険に加入する前に、必ず押さえておきたい高額療養費制度。
医療費の自己負担額が抑えられる制度ですが、これがあれば民間の医療保険は不要と断言できるのでしょうか?
この記事では、高額療養費制度を含めた公的医療保険制度の内容について解説します。制度の内容を踏まえ、民間の医療保険やがん保険を選ぶポイントについてもご紹介します。
この記事のポイント
- 高額療養費制度とは支払った医療費の内、自己負担限度額超過分の還付が受けられる制度
- 所得や年齢等によって自己負担限度額は異なる 国保でも使える
- あくまで1か月間に支払った医療費が対象
- 先進医療などの保険適用外の治療を受けた場合は対象外
- 高額療養費制度には認定要件があるため、民間保険での補填も検討の余地あり
1.高額療養費制度とは?
万が一の病気やケガで、「長期入院」や「手術ありの短期入院」をすることとなった場合に活用できる高額療養費制度とは、いったいどのような制度なのでしょうか。
制度の概要について解説します。
1-1.高額な医療費をカバーする公的医療保障制度
高額療養費制度とは、医療費の自己負担増を抑えてくれる、公的医療保障制度の1つです。
健康保険(含む国保)の制度で、加入者が利用できます。
医療機関や薬局の窓口で支払った医療費の額が、ひと月(月の初めから末日まで)で一定の上限額(以下「自己負担限度額」)を超えた場合に、その超過分が支給される制度です 。
この制度によって、手術や投薬によって治療費の負担が高額になった場合でも、自己負担を抑えられ安心です。
1-2.自己負担限度額は年齢や所得によって異なる
高額療養費の1か月あたりの上限額は、加入者の年齢や所得によって分けられます。
70歳未満の加入者の自己負担限度額は、下表のとおりです。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
ア | 年収約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
健保:標準報酬83万円以上 | ||
国保:旧ただし書き所得901万円超 | ||
イ | 年収約770~1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
健保:標準報酬53~79万円 | ||
国保:旧ただし書き所得600~901万円超 | ||
ウ | 年収約370~770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
健保:標準報酬28~50万円 | ||
国保:旧ただし書き所得210~600万円超 | ||
エ | ~年収約370万円 | 57,600円 |
健保:標準報酬26万円以下 | ||
国保:旧ただし書き所得210万円以下 | ||
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
※「旧ただし書き所得」についてはこちらをご参照ください。
例えば年収500万円の人が、1か月にかかった医療費が100万円だった場合、上記の表ではウに該当し、高額療養費を申請した場合は80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円が一か月の自己負担限度額となります。
入院・治療・手術などで総額100万円かかる治療でも、3割負担の30万円から更に減らすことができ、1割未満の9万円弱で済むということになります。
・複数の医療機関を受診した場合、1つの医療機関あたり21,000円を超える分が対象となります。21,000円を超えない分はカウントされません。
・上限額は、あくまで「1日から末日」の1か月間の支払額です。
上記表の「ウ」のケースで言うと、例えば10月末に入院・11月始めに退院して、各月50万円の医療費がかかった場合、自己負担限度額は約8万円から約16万円になります。
月をまたいだ場合に、高額療養費の自己負担限度額が増えてしまうという点は、高額療養費の落とし穴です。
1-3.複数の医療機関や世帯の医療費も合算できる
1回の窓口負担額が自己負担限度額を超えない場合でも、次のケースでは高額療養費制度が適用されます。
・複数回受診(別の病院も含む)した医療費の合計が超過した場合
・同一世帯の家族の医療費を合算して超過した場合(別の健康保険制度でも合算できる)
1-4.1年間に4回申請する場合は上限額がさらに引き下がる
1年以内に4月以上高額療養費制度を利用する場合、4月目以降の自己負担限度額は軽減されます。
(自己負担限度額に達した月数ではなく、高額療養費制度を利用した月数をカウントします。)
4回目以降の上限額は、下表のとおりです。
所得区分 | 本来の負担の上限額 | 多数回該当の上限額 |
年収約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
年収約770~1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
年収約370~770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
~年収370万円 | 57,600円 | 44,400円 |
住民税非課税者 | 35,400円 | 24,600円 |
1-5.申請は加入している健康保険や国保へ!国保でも使えます。
高額療養費制度の申請は、加入している公的医療保険から申請書を受け取り、必要事項を記入して提出します。
勤務先の健康保険に加入している会社員の人は、保険者である全国健康保険協会(協会けんぽ)や各健康保険組合に、勤務先の総務担当を通じ、または直接問い合わせを行ないます。
国民健康保険に加入している自営業者は、保険者は居住地の市区町村です。お住まいの市役所などに相談しましょう。
申請を行なった後、認定されれば、約3か月後には先に支払った医療費が払い戻されます。
1-6.高額療養費は医療費控除との併用も可能
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った世帯の医療費が10万円を超える場合、確定申告をすることで払いすぎた所得税や住民税の還付が受けられる制度です。
高額療養費を申請して治療費の還付を受けた場合でも、医療費控除を利用することができます。
控除の対象となる医療費は、病院窓口などで支払った医療費から高額療養費として還付された金額を差し引いた金額です。
2.高額療養費があっても民間医療保険が必要な2つの理由
高額療養費制度は、医療費の自己負担分を抑えてくれる、便利で有益な公的保障です。
しかしながら、高額療養費があっても、民間医療保険の加入を必要とする場合もあります。
民間医療保険が必要な理由は、以下の2つです。
理由1,先進医療などは高額療養費の対象外
前提として、高額療養費制度の対象となるのは保険適用される医療費です。
高額療養費制度の対象とならない医療費には、以下のようなものがあります。
高額療養費の対象外の医療費
- 先進医療や自由診療にかかる費用
- 入院中の食事代や日用品費
- 家族が移動するための交通費
- 患者の希望によってサービスを受ける差額ベッド代(一例です)
これらの負担は、治療期間が長くなれば長くなるほど負担は大きくなります。
さらに詳しく
先進医療とは「公的医療保険制度に基づく評価療養のうち、厚生労働大臣が定める高度な医療技術」で、保険適用されないため、治療費は全額自己負担になります。
ただし、民間の医療保険やがん保険で先進医療特約を付加すれば、先進医療にかかる技術料相当額が支給されます。
実際に先進医療を使うケースはどれくらいの頻度あるのか?
実際にがんの治療でもほとんどは保険適用範囲内の治療であり、先進医療を受ける頻度や、受けることができる施設も限られています。
また、貴方の主治医が、先進医療を積極的に提案・対応してくれるかどうかにもよります。この辺りは医師や家族と相談して検討することとなりますが、先進医療を受ける機会は少ないかもしれません。
一方、先進医療を保険対象とする先進医療特約の保険料は、毎月数百円ですので、金額とのバランスを見て、万が一に備えてつけるという選択肢もあるかもしれません。
なお、先進医療の治療メニューは厚労省サイトから確認できますので、どのような治療があるのか、下記リンクから参考までご覧ください。
※先進医療の各技術の概要(令和3年9月1日現在)
理由2,高額療養費の認定要件に左右されない
高額療養費制度は、ここまでご覧頂いた通り、認定要件があります。
しかし、前述の「注意」の欄で記載した下記の条件も、民間保険の保険支払いに影響がありません。
・同月内で21,000円以上の医療費が対象
・複数の医療機関で受診した場合は、一つの医療機関で21,000円以上の医療費が対象
・月を跨いでしまうと、限度額が増えてしまう。
当然、民間の医療保険も条件に該当した場合しか支給されませんが、高額療養費の要件に左右されない点はメリットとしてあるかもしれません。
また、高額療養費は一旦は病院窓口で医療費を支払う必要があります。一時的な支出負担によって、家計に大きなダメージを与えてしまうこともあるでしょう。
事前に「限度額適用認定証」を提出すれば、窓口での負担を限度額に抑えることができますが、病気やケガは突然見舞われることが多く、事前の手続きが困難なケースもあるでしょう。
また、高額療養費は払い戻しを受けるまでに約3か月かかります。退院後に今までどおりの仕事ができず、所得が減少してしまうケースもあり得ます。そうした不安を考慮すれば、手持ちの現金は少しでも残しておきたいものです。
民間の医療保険を活用すれば、退院後すぐにまとまった給付金を受け取ることができます。保険商品によっては入院中に請求できるものもありますので、窓口負担に不安がある人は、民間の医療保険の備えは必要です。
限度額適用認定証とは?
限度額適用認定証を提示すると、医療費の窓口負担額が「自己負担限度額」までとなります。高額な医療費を一時的に立て替える必要がなくなり,窓口負担が軽減されます。
認定証の申請は加入している健保組合を経由して行います。申請をしたほうが良いか、病院で確認すると良いでしょう。
3.医療保険を選ぶポイント
高額療養費を始めとする充実した公的医療保険を加味したうえで、民間の医療保険ではどのような保険を備えておくべきでしょうか。
医療保険やがん保険を選ぶときのポイントは、以下の2つです。
ポイント1.「一時金」の金額を重視
医療保険やがん保険に多いのが、「入院1日あたり〇〇円」という保障内容です。
入院期間が長くなれば、受け取れる給付金も大きくなります。しかし、その反面で入院期間が短かければ、十分な給付金が確保できない可能性もあります。
現在、医療保険やがん保険で人気を集めているのが、一度にまとまった給付金が受け取れる「一時金の保障」です。
「入院したら一時金〇〇円」、「がんになったら一時金〇〇円」といったように、使途を制限しない一時金保障は、治療費だけでなくその後の生活費などにも役立てることができます。
ポイント2,先進医療や自由診療もカバーできる保障を
民間の医療保険は、公的医療保険の不足分をカバーするものです。公的医療保険の不足分で最も大きいのは、保険適用外となる先進医療や自由診療の負担です。
どのような病気が自分の身を襲うかは、誰にもわかりません。
自分の病気に最善の治療法が先進医療や自由診療だった場合、経済的な理由で治療を諦められるでしょうか。医療保険やがん保険に加入する場合は、こうした保障にも着目しましょう。
4.高額療養費と民間医療保険を併用し、効率良く万全な備えを!
高額療養費は、とても便利で有益な公的医療保険制度の1つですが、高額療養費だけでは払拭できない不安を解消するためにも、民間の医療保険を上手く活用することが大切です。
公的医療保険では足りない部分だけを効率よく補えるように、自分が加入している保障内容はしっかりと理解しておきましょう。