年金制度への不安や支払いが厳しいという理由で国民年金の支払いをしていないという方もいるかと思います。
国民年金の支払いを怠っていると、日本年金機構から書類が届いたり電話が来ることがありますが、そのまま無視し続けても問題はないのでしょうか?
また、国民年金を支払えない場合はどうしたら良いでしょうか?
今回は、国民年金を支払わないとどうなるか、払えない場合の対処法について、解説します。
この記事のポイント
- 20歳以上60歳未満の日本に住む人は、国民年金の加入が義務付けられており、毎月保険料を支払う必要がある
- 納付しないと将来の年金が下がるだけでなく、万が一の時に遺族年金や障害年金を貰えないなどのデメリットがある
- 支払いを無視し続けると、催告状、督促状が届き、差押えの対象となる
- 催告状や督促状には、送付される条件がある
- 差押えは家族が所有している財産も対象になる
- 支払いが難しい場合は、市区町村の国民年金課に連絡し、免除申請をしよう
1.国民年金保険料の納付は義務
まずは、国民年金を支払う必要があるのかという点について解説します。
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方はすべて国民年金に加入することが義務付けられています。これは国民年金法という法律で決まっており、保険料の納付も法律で決められております。
参考
第一条 国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
1-1.国民年金の保険料はいつからいつまで払う義務がある?
20歳以上60歳未満の間は、日本に住んでいる限り保険料を毎月支払う必要があります。
厳密にいえば、60歳の誕生日の前日をもって国民年金の加入期間は終わりになりますので、保険料の納付は誕生日の前月(1日生まれの方はお誕生日の前々月)までとなります。
1-2.未納が問題となるのは誰?
会社員、公務員の方は、会社で厚生年金に加入しており、厚生年金に加入することで、国民年金にも加入することになります。保険料も毎月の給与から天引きされていますので、払い漏れの心配はありません。
年金の未納が問題になるのは、国民年金のみに加入している方々です。
具体的には、日本に住む20歳以上60歳未満の、個人事業主、学生、フリーター、無職の人、外国人留学生などの方で、彼らは自分で毎月国民年金保険料を納付する必要があります。(口座引き落としや、まとめて先払いする前納も可能です。)
なお、毎月の国民年金保険料は、原則として翌月末日までに納付しなければなりません。
2.納付ができなければ、免除制度を利用しよう。
国民年金の納付期間は20歳から60歳と、40年もあります。
当然、その間に学生の期間もあれば、生活が苦しくて納付が難しい期間もあるかもしれません。
納付が難しい際は、保険料の「免除制度」を利用しましょう!
経済的な理由により、保険料を納めることができない場合は、保険料を「全額免除」 または「一部免除」する制度があります。
また、免除された保険料は、10年以内であれば、さかのぼって納める(追納する)ことができます。
以下の方は、保険料の免除申請ができる可能性がありますので、必要があれば市区町村の国民年金課で確認してみましょう。
保険料の免除申請ができる可能性がある方
・学生の方
・産前産後の妊婦の方
・所得条件により納付が困難な方
・新型コロナウィルス感染症の影響で、失業した方、事業を廃業した方 など(一例です)
免除申請は、最寄りの年金事務所もしくは、市区町村の国民年金課で可能です。
また、年金ネットでも申請書の作成が可能です。
2-1.免除制度を利用するメリット
免除が承認されると以下のメリットがあります。(一例です)
・免除された保険料は、10年以内であれば、さかのぼって追納できる。
・免除申請しておかないと、万が一の遺族、障害年金も受け取れない可能性がある
未納状態は非常に不利ですので、どうしても払えなければまずは市区町村に相談することが重要です。
「免除」と「未納」は全く意味が異なりますので注意が必要です。
詳しい免除制度の解説や申請方法はこちらの記事で解説していますのでご覧ください。
-
年金 免除申請の条件は?国民年金保険料の免除の方法や注意点を社労士が解説
学生で収入がない、新型コロナの影響で失業したなどで年金の納付が困難な方には、免除制度があります。免除という名称から納付したことと同じと思っている方もいるのではないでしょうか。 この記事では免除制度の概 …
続きを見る
3.年金の未納が続くと、最終的には財産の差押え
国民年金を払わずに放置してしまうと、最終的には財産の差押えになります。
差押えとなる財産には、預貯金、株式などの有価証券、不動産、車など換金性のあるものは全てが対象になります。
国民年金を払わなかった場合には、次のような手続きが取られます。
step
1電話による支払い奨励、戸別訪問(省略あり)
step
2年金特別催告状の送付
step
3最終催告状の送付
step
4督促状の送付
step
5差押予告
それぞれの手続きについて、詳しく確認していきましょう。
3-1.電話による支払い奨励、戸別訪問
国民年金の未納が続いている場合、電話や戸別訪問による納付案内を受ける場合があります。(このステップは省略されるケースもありますので注意してください。)
国民年金を管轄しているのは日本年金機構ですが、実際に電話、訪問を行うのは、委託を受けた民間業者になります。
ただし、あくまでも納付の案内や奨励を受けるだけではありますので、その場で支払うということや業者が現金を預かって支払うということはありません。
注意
その場で保険料を払え、というのは詐欺の可能性もあるので注意しましょう!
もし、保険料をきちんと払っているのに納付案内を受けたなど、身に覚えのない場合は、年金記録の誤りの可能性もあります。案内に記載されている管理番号をもとに、最寄りの年金事務所、もしくは市区町村の国民年金課に確認しましょう!
3-2.年金特別催告状の送付
国民年金保険料の支払いを放置し続けると、年金特別催告状というものが届くようになります。
年金催告状には、届いた回数や未納の期間に応じて、青、黄、赤の3色の封筒が届きます。
それぞれの色ごとに重要度が異なり、赤色の封筒が届いた場合には、次の手続きに進む可能性が高いです。
繰り返しになりますが、年金催告状が届いた場合は、最寄りの年金事務所もしくは、市区町村の国民年金課にまずは相談しましょう。
相談をする場合は、相談日や担当者名、相談内容も記録し、「相談をした」という履歴を残すことが重要です。
黙って無視することが一番よくありません。
納付書は使用期限に注意!
納付は、催告状に同封されている納付書で、お近くの金融機関・郵便局・コンビニエンスストアなどで納めることができます。
納付書には「納付期限」と「使用期限」があり、「納付期限」は翌月末、「使用期限」は2年後です。使用期限がすぎていなければ、いつ送付された納付書であっても納付することができます。
まずは期限の古いものから払うようにしましょう。
3-3.最終催告状の送付
年金特別催告状を無視し続けると、最終催告状が届きます。
最終催告状に記載されている期限内に支払いの確認が取れない場合には、督促状の送付や差押が行われることとなります。
督促状が送られてしまうと、財産の差押までは秒読みとなってしまうため、最終催告状が届いた段階で早めに保険料を支払いましょう。
最終催告状が送られる人の条件
最終催告状が送付される方には条件があるようです。
日本年金機構 令和元年度業務実績報告書によると、最終催告状の送付対象者(世帯)は、控除後所得 300 万円以上かつ未納月数7月以上の未納者と記載されています。
これは、世帯での年間所得である点に注意が必要です。
本人だけでなく、世帯主や配偶者の所得を合算して対象とします。
なお、「この条件に合致していないから、督促状も来ないだろう」と考えるのは早計です。
過去の年金機構の業務実績報告書を見ると、送付対象者が厳格化していることがわかります。
最終催告状の送付対象者(世帯)
2015年度 年間世帯所得400万円以上、13か月以上の滞納者
2016年度 年間世帯所得350万円以上、7か月以上の滞納者
2017年度 年間世帯所得300万円以上、13か月以上の滞納者
2018年度 年間世帯所得300万円以上、7か月以上の滞納者
2018年度以降から現在までは同様の基準
ご覧の通り、最終催告状の発送基準は年々厳格化されており、政府としても逃げ得は許さないという強い意志を感じます。該当する方は、最終警告だと思って、早急に納付するようにしましょう。
ちなみに令和元年度の最終催告状の送付件数は142,871件でした。
3-4.督促状の送付
最終催告状に記載されている支払い期限までに年金の支払いが確認できない場合には、督促状が送付されます。
督促状の場合は、「催告状とは異なり、支払い期限を超過すると差押えの手続きを行う」というような警告が含まれています。
法的にも差押え処分の前提手続きになりますので、督促状を受け取った場合は速やかに納付してください。
注意1 督促状の納付期限を過ぎると、延滞金が加算される
督促状も無視し続けると、財産の強制徴収となりますが、延滞金もしっかりと計算されて徴収されることとなりますので、注意が必要です。
注意2 高額所得者は国税庁による差押えの可能性も!
払えるのに払わないという人は悪質と判断され、国税庁と連携して強制徴収されます。
具体的には、控除所得1000万円以上、かつ滞納期間13ヶ月の滞納者は、「国税庁」による強制徴収の対象となるようです。
国税庁による年金未納者に対する強制徴収は、令和元年度は 79件実施されています。
督促状の送付件数と、差押件数
督促状送付件数 89,615件
差押実施件数 20,590件(いずれも令和元年度)
3-5.差押の実施
督促状を無視して支払いを怠った場合、差押予告というものが届きます。
督促状を無視した段階で、日本年金機構は対象者の財産の調査を行います。
銀行などから預貯金の残高の問い合わせを行い、有価証券や車、住宅などのあらゆる財産を調べられてしまいます。また、家族がいる場合には、家族が所有している財産も差押えの対象になります。
差押えの予告が届いてしまうと、財産の調査が終わり、差押えを実行することが確定しているような状況です。
したがって、差押予告が届いてから焦って年金保険料を納付しても差押えが実行されてしまいますので注意が必要です。
【参考】 収納対策のスキーム 出典:日本年金機構 令和元年度業務実績報告書
4.時効による徴収権消滅はあてにしない
年金保険料を徴収する権利には「2年」という時効がありますので、2年間無視を続ければ時効により徴収権が消滅するのでは?とお考えかもしれません。
しかし、催告状などで催告をしている限り、時効はストップするので納付義務は消滅しません。時効はあてにせず、早めに送付するようにしましょう。
ただ、過去には、時効により保険料の徴収権利が消滅してしまった事例もあるようです。
平成28年度の会計検査院決算検査報告の中で、政府は日本年金機構に対して、取るべき保険料が時効により消滅しないよう、適正な運営を求めた報告書があります。
<事例1>
岡山西年金事務所は、平成26年8月22日に、未納者Bに対して督促状(督促保険料361,050円)を発行した。そして、指定期限である同年9月1日を経過しても保険料の納付がなかったことから、同月25日に、未納者Bに対して差押予告通知書を発行し、同年12月8日に未納者Bの財産調査を開始した。その結果、同年金事務所は、同月16日に、未納者Bが金融機関の口座に656万余円の預金残高を保有していることを把握していたのに、当該財産の差押えを行っていなかった。そして、当該保険料を徴収する権利は28年9月2日に消滅時効が完成していた。
<事例2>
堺東年金事務所は、平成26年10月20日に、未納者Cに対して督促状(督促保険料361,590円)を発行した。そして、指定期限経過後の同年12月8日に督促保険料が完納されたため、延滞金の額を49,450円と確定し、27年1月に延滞金納付書を発行した。しかし、同年金事務所は、その後、未納者Cから延滞金が納付されていないのに、延滞金の納付督励等を行っていなかった。そして、当該延滞金を徴収する権利は28年12月9日に消滅時効が完成していた。
ただ、これはかなりレアケースですので、時効消滅をあてにせず、保険料は必ず支払うようにしましょう。
5.年金保険料の納付は国民の義務です。
今回は、国民年金を払わなかった場合、払えない場合の対処法について解説しました。
国民年金の支払いを無視し続けることで、ゆくゆくは財産が差押えとなる可能性が非常に高いです。
支払いを忘れているだけという場合には、早急に支払い手続きを行い、支払いが厳しい場合には免除制度を活用する必要があるでしょう。