教育資金を準備するための手段として代表されるのが学資保険。子どもが生まれたら必ず学資保険に入るのが当然だと考えている人は少なくありません。しかし、本当にそれがベストな選択といえるのでしょうか。
この記事では、学資保険の仕組みや特徴、メリット・デメリットを解説したうえで、学資保険をおすすめしない人とその理由について解説します。
1.学資保険の概要
ソニー生命保険株式会社の「子どもの教育資金に関する調査2021」によると、大学等へ進学させるための教育資金の準備方法として、高校生以下の子を持つ親で50.7%、すでに大学等に通っている子を持つ親で50.2%の人が、学資保険を活用しています。
半数以上の親が活用している学資保険とは、いったいどのような内容なのでしょうか。
1-1.学資保険は進学資金準備を目的とした貯蓄型の保険
学資保険はその名のとおり、子どもの学資金(教育資金)を積み立てるために加入する貯蓄型の保険のことです。
満期は進学時期に合わせて自由に設定でき、大学進学時に一括で受け取る方法もあれば、中学や高校進学のタイミングにも分割して受け取る方法もあります。
1-2.銀行預金との違いは保険としての機能があること
教育資金の積み立てという意味では、銀行預金など他の手段と変わりません。学資保険が他の積み立て方法と大きく異なるのは、保険ならではの保障機能を持っている点です。
学資保険は、契約中に契約者である親に万が一のことがあった場合、その後の保険料の支払いを負担することなく満期保険金が受け取れる払込免除の機能が付けられます。
親に万が一があった場合でも保障が受けられるという点は、預貯金などにはない学資保険ならではの特徴です。
1-3.代替え手段は祖父母からの贈与制度
教育資金の贈与制度は、学資保険を契約する前に確認しておきたい制度です。
もし祖父母の協力が得られるのであれば、教育資金の贈与制度も検討しましょう。
贈与制度は孫の入学金や学費、習い事の費用などに活用でき、贈与税、相続税の節税効果があります。
仮に祖父母からの贈与、援助があれば、学資保険をを掛ける必要も無いかもしれません。
詳細はこちらの記事で記載していますので、概要を把握しておきましょう。
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2.学資保険のメリット・デメリット
学資保険のメリット・デメリットについて、それぞれ解説します。このメリット・デメリットが、各個人にとっての向き・不向きにつながりますので、十分に理解しておきましょう。
2-1.学資保険の4つのメリット
学資保険のメリットは、以下の4点です。
メリット1.強制力があり確実に貯めることができる
自分で貯蓄するのが苦手な人でも、毎月の保険料として引き落としがかかることで、強制的にお金を貯めることができます。学資保険というネーミングどおり、子どもの教育資金として設定した目標額を、確実に貯めることが可能です。
メリット2.普通預金と比較して高い利回りが見込める
学資保険は普通預金と比較して、利回りが期待できます。
保険会社の商品にもよりますが、途中解約しない限り、満期に設定した進学時のタイミングで受け取れるお金は、学資保険の方が多く受け取ることができます。
メリット3.契約者に万が一の場合に保障が受けられる
契約者である親に万が一の事態が発生した場合に、その後の保険料の支払いをすることなく、満期保険金が受け取れる払込免除の保障が受けられます。
親にもしものことがあっても教育資金が準備できるため、子どもが進路を諦めなくても済みます。
メリット4.節税効果が得られる(生命保険料控除)
学資保険に支払った保険料は生命保険料控除の対象となり、所得控除によって節税の恩恵を受けることができます。貯蓄しながら税金を抑えられる点はメリットです。
2-2.学資保険の3つのデメリット
反対に、学資保険のデメリットとしては、以下の3つがあげられます。
デメリット1.途中解約すると元本割れが生じる
学資保険を途中で解約してしまうと、解約時に戻ってくるお金は支払った額よりも少なく、元本割れを生じてしまうケースがほとんどです。
子どもが進学するタイミングまでの間、病気やケガで働けなくなったり、転職により収入が減少したりと、月々の保険料負担が困難になってしまう可能性もあり得ます。その場合、途中解約をしてしまうと損失が生じてしまう点はデメリットです。
デメリット2.他の金融商品と比較すると貯蓄率は低い
メリットの1つに「普通預金よりも増える」がありますが、貯蓄手段は他に数多くあります。そうした金融商品と比較すると、学資保険の貯蓄率はそれほど大きくありません。
昨今の低金利の影響もあって、学資保険の貯蓄率(返戻率)の水準は低下しており、より増やしたいと期待するのであれば、学資保険では弱いといわざるを得ません。
デメリット3.進学資金をカバーできない可能性もある
学資保険は契約時の時点で、将来受け取れる教育資金の金額が決まっています。
目標とする金額が確実に受け取れる点では、安心感も大きいでしょう。
しかし、その金額で将来の進学資金を確実にカバーできるかどうかはわかりません。
少子化は大学の運営にも影響を及ぼし、入学金や授業料は値上がり傾向にあります。現在と同じ感覚で貯めた教育資金が、将来には足りなかったというケースも想定されます。
また、可能性は低いですが、加入した保険会社が経営破綻してしまうリスクも考えられます。
3.学資保険をおすすめしない人は?
学資保険は将来に向けた教育資金準備の一つの手段であり、メリットもあればデメリットもあります。その特徴を十分に理解したうえで加入を検討するようにしましょう。
学資保険への加入をおすすめしない人とその理由については、以下のとおりです。
3-1.まとまった資金を持っている人
ある程度まとまった資金を持っている人は、学資保険に無理に加入する必要はありません。
文部科学省令、及び文部科学省「2020年学生納付金調査」、「2019年度私立大学等入学者に係る初年度学生納付金平均額調査」によると、大学の初年度納付金の平均額は下表のとおりです。
区分 | 入学料 | 授業料 | 施設設備費 | 合計 |
国立大 | 282,000 | 535,800 | ー | ¥817,800 |
公立大 | 392,111 | 536,382 | ー | ¥928,493 |
私立大文系 | 228,262 | 793,513 | 150,807 | ¥1,172,582 |
私立大理系 | 255,566 | 1,116,880 | 177,241 | ¥1,549,687 |
私立大医歯系 | 1,073,083 | 2,867,802 | 862,493 | ¥4,803,378 |
初年度にかかる費用は国公立大で約100万円、私立大文系で約120万円、私立大理系で約150万円という状況です。
また、大学4年間で考えると、必要な費用は以下のとおりです。
希望する進路にもよりますが、子どもが大学に進学するまでに1人あたり500〜600万円は貯めておきたいものです。
これをまかなえるだけの貯蓄があれば、リスクのある学資保険に無理に加入する必要はないでしょう。
3-2.短期間でお金を増やしたい人
教育資金の準備をできるだけ短期間で、できるだけ大きく増やしたいと考えている人は、学資保険は不向きです。
学資保険は払込期間中に積み立てたお金を、保険会社が運用して増やす仕組みですが、前述のとおり高い利回りは期待できません。
子どもがある程度大きくなってから教育資金の準備を始めようと考えている人もいるでしょうが、限られた期間でより大きく増やすには、学資保険では役不足です。
この場合、ある程度のリスクを許容し、高いリターンが得られる別の運用手段を検討しましょう。
3-3.親自身の保障を備えていない場合
契約者である親が充分な保障を備えていないのであれば、学資保険はおすすめできません。
契約者である親に万が一の事態が発生した場合、十分な保障が備わっていなければ、経済的に困窮し学資保険どころではなくなってしまうでしょう。お金が足りず、学資保険さえも途中解約してしまうという事態が発生します。
学資保険にも保障機能があるとはいえ、あくまでもその目的は教育資金の準備です。遺された家族が不自由なく生活できる資金があってこそ、学資保険が役立ちます。
学資保険を検討する前に、生命保険や医療保険などで自身の保障をしっかりと備えることが重要です。
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4.学資保険はおすすめできるか?
学資保険は子どもの将来に向けた教育資金の準備という目的においては、有効な手段の1つといえます。特に「貯蓄が苦手な人」や「堅実に教育資金を準備したい」という人には、おすすめできる保険です。
しかし、様々な貯蓄手段がある中で、学資保険だけが自分に合った手段だとは限りません。自身の資産状況や保障の状態、自分の貯蓄意向やリスク耐性などを、総合的に判断したうえで、手段や商品を選択するようにしましょう。
大切な子どもの将来のために、無理なく継続することが大切です。計画性をもって、上手に準備してきましょう。