この記事では、「個人年金保険の掛金を支払えば毎年の税金が減ると聞いた。これって本当?」という疑問をお持ちの方や、「保険金を受け取るときにたくさんの税金がかかると聞いた。上手な受け取り方はあるの?」という疑問をお持ちの方向けに、
①個人年金保険の掛金を支払った際の所得控除と、
②保険金の上手な受け取り方、の2点を中心に解説します。
1.結論
結論からいうと、それぞれの質問に対する回答は次のとおりです。
個人年金保険の掛金を支払えば毎年の税金が減ると聞いた。これって本当?
年収700万円の会社員が年間10万円の保険料(2万円と8万円)を支払うと毎年の税金が約1.7万円減ります
保険金を受け取るときにたくさんの税金がかかると聞いた。上手な受け取り方はあるの?
保険金の受取人を保険契約者にするのが保険金の上手な受け取り方です
2.生命保険料控除の控除額と効果
2-1.生命保険料控除とは
まずは、個人年金保険の掛金を支払った際に税金が減る仕組みについて解説します。
個人が支払った生命保険の掛金のうち、以下については、掛金を支払った年に「生命保険料控除」という所得控除を受けることができ、これを受けることで毎年の税金が減ります。
①生命保険契約等
②介護医療保険契約等
③個人年金保険契約等
生命保険料控除を受けるためには原則として確定申告をすることが必要ですが、会社員の場合は年末調整所得控除を受けることが可能です。
2-2.生命保険料控除の控除額
2012年(平成24年)1月1日以降に契約した生命保険にかかる生命保険料控除の金額は以下のとおりです。
控除額を保険の種類(上記の①から③)ごとに計算すること、2011年12月31日以前に契約した生命保険にかかる控除額は以下とは異なることにご注意ください。
年間の支払保険料 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
12,000円以下 | 全額 | 全額 |
12,000円超20,000円以下 | 全額 | 6,000円 + 年間の支払保険料の半額 |
20,000円超32,000円以下 | 10,000円 + 年間の支払保険料の半額 | 6,000円 + 年間の支払保険料の半額 |
32,000円超40,000円以下 | 10,000円 + 年間の支払保険料の半額 | 14,000円 + 年間の支払保険料の4分の1 |
40,000円超56,000円以下 | 20,000円 + 年間の支払保険料の4分の1 | 14,000円 + 年間の支払保険料の4分の1 |
56,000円超80,000円以下 | 20,000円 + 年間の支払保険料の4分の1 | 28,000円 |
80,000円超 | 40,000円 | 28,000円 |
ポイント
たとえば、A氏が1年のうちに生命保険の掛金を20,000円、個人年金保険の掛金を80,000円支払った場合、A氏のその年の生命保険料控除額は次のとおり計算できます。
保険の種類 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
生命保険の掛金(20,000円) | 20,000円 | 16,000円 |
個人年金保険の掛金(80,000円) | 40,000円 | 28,000円 |
計 | 60,000円 | 44,000円 |
2-3.生命保険料控除の効果
上記の生命保険料控除額があることでA氏の税金はどれくらい減るでしょうか。
A氏の給与収入が700万円で、基礎控除と社会保険料控除(100万円とします)以外の所得控除及び税額控除がない場合のシミュレーションをしたところ、A氏の年税額は所得税と住民税合わせて約1.7万円減る結果となりました。
保険料控除の有無 | 課税所得(所得税) | 所得税額 | 住民税額 | 税額計 |
なし | 372万円 | 約32.3万円 | 約38.1万円 | 約70.4万円 |
あり | 366万円 | 約31.1万円 | 約37.6万円 | 約68.7万円 |
あり-なし | ▲6万円 | 約▲1.2万円 | 約▲0.5万円 | 約▲1.7万円 |
3.保険金の上手な受け取り方
以上、生命保険料控除の控除額及び効果について解説しました。
次に、保険金の上手な受け取り方について解説します。
保険金の受け取り方については、「誰が受け取るのか」と、「どうやって受け取るのか」によって税金の取り扱いが変わります。
3-1.受取人を誰にするか?
まずは「誰が受け取るのか」の論点について解説します。
保険金(満期保険金や解約返戻金など)の受取人が保険の契約者(=掛金を支払っていた人)であれば、その保険金のうち利益相当部分について所得税が課税されます。
一方、保険金の受取人が掛金を支払っていた人以外(たとえば掛金を支払っていた人の配偶者)であれば、保険金の受取人に対して贈与税が課税されます。
具体的な税額について、次の生命保険の満期保険金を事例に解説します。
満期保険金の額 | 1,000万円 |
支払保険料の額 | 800万円 |
掛金の支払者 | A氏 |
まず、A氏が保険金を受け取った場合は、A氏に所得税が課税されます。A氏の課税所得に算入される金額は75万円、A氏が追加的に課税される税額は約22.8万円です。計算過程は次のとおりです。
計算要素等 | A氏の場合 |
①満期保険金の額 | 1,000万円 |
②支払保険料の額 | 800万円 |
③一時所得の特別控除額 | 50万円 |
④課税所得に算入される金額
(① – ② – 50万円)÷ 2 |
75万円 |
⑤追加的に生じる所得税額、住民税額 | 所得税額 : 約15.3万円
住民税額 : 約7.5万円 |
一方、A氏の妻であるB氏が保険金を受け取った場合は、B氏に贈与税が課税されます。B氏に課税される贈与税額は231万円です。
計算要素等 | B氏の場合 |
①贈与を受けた金額 | 1,000万円 |
②基礎控除額 | 110万円 |
③贈与税額(① – ②)× 税率 | 231万円 |
以上より、「保険金を誰が受け取るのか」という点については、「掛金の支払者が受け取る」という選択がベストであることがお分かりいただけると思います。
B氏に保険金を受け取らせたい場合は、B氏が自身で掛金の負担をすることをおすすめします。
なお、個人年金保険の契約者と年金受取人が異なる場合は、年金受取人に贈与税と所得税が課税されます。
3-2.一括受け取りと毎年受け取りの比較
次に、「どうやって受け取るのか(一括受け取りか毎年受け取りか)」について解説します。
保険金(満期保険金や解約返戻金など)を一括で受け取った場合、その保険金の利益部分が「一時所得」として課税されます。
一方で、保険金を年金(毎年受け取り)で受け取った場合、その保険金の利益部分が「雑所得」として課税されます。なお、利益部分は保険金の支払いを受ける時点で課税されるため、契約期間中の各年で生じた運用益について各年で課税されることはありません。
たとえば、累計掛金が800万円、一括または年金で受け取ることができる金額が1,000万円だとすると、この保険による利益部分の金額は200万円ですから、この200万円に対して一時所得または雑所得として課税されることになります。
まず、一時所得として課税される場合の税額は、3(2)で解説したとおり計算します。A氏の場合は、所得税・住民税合わせて約22.8万円が課税されます。
一方、雑所得として課税される場合の税額は次の方法により計算します(100万円を10年間受け取る契約とします)。
計算要素等 | A氏の場合 |
①各年の収入金額 | 100万円 |
②必要経費の掛率
掛金の累計額 ÷ 保険金の受取総額 |
0.8
800万円 ÷ 1,000万円 |
③各年の必要経費 | 80万円 |
④各年の雑所得の金額 | 20万円 |
⑤各年の所得税額 | 0円(確定申告をせず、他に雑所得がない場合) |
⑥各年の住民税額 | 約2万円 |
年末調整済みの会社員は、雑所得の金額が20万円以下の場合は、原則として所得税の確定申告を行う必要がありません。
A氏がこの保険金以外の雑所得を有しない場合、A氏は所得税の確定申告を行う必要はなく、よって所得税の額も0円です。
一方、住民税には「雑所得の金額が20万円以下の場合は申告不要」という制度はありませんので、この場合は住民税の申告のみを行う必要があります。
申告を行った場合、約2万円の住民税が追加的にかかります。なお、④の金額が25万円以上の場合は源泉徴収後の金額を受け取ることになりますが、25万円未満の場合は源泉徴収されないため、所得税の確定申告をするメリットはありません。
以上より、「保険金をどうやって受け取るのか」については、トータルの税額は一括受け取りと年金受け取りとで大差がない結果となりました。
年金受け取りの場合において、各年の所得金額が20万円以下のときであっても住民税の申告が必要である点は注意が必要です。
4.まとめ
以上、個人年金保険の掛金を支払った際の所得控除と、保険金の上手な受け取り方について解説しました。
ポイント
この記事の結論は、
①年収700万円の会社員が年間10万円の保険料(2万円と8万円)を支払うと毎年の税金が約1.7万円減る
②「保険金の受取人を保険契約者にする」のが保険金の上手な受け取り方である の2点です。
生命保険料控除による節税額や保険金の受け取り方の違いによる税額へのインパクトは各人の所得状況等によって異なるため、必要に応じてお近くの税理士などにご相談されることをおすすめします。
この記事を書いた人
安東正三(あんどうしょうぞう) 税理士
税理士事務所代表。個人の税金(所得税や相続税)を得意としています。税金の「困った」を「分かった・助かった」にできるよう日々活動しています。